心に優しいプチ童話集 優しい愛にあふれる短い童話集です。無料で読めます。ご家族でどうぞ!

第三話「お米の兄弟」

お米の穂は、どうして頭を下げているんだろう?最初は、そうではないのです。では、どうして、頭をゆったり!と垂れることができるようになったのかな?

お米の兄弟たち

ぽかぽかの春に、田んぼに仲よく植えられたばかりの、お米の苗(なえ)の兄と弟がいました。でも、あまり仲(なか)が、よくはありませんでした。いつも、喧嘩(けんか)をしては、にらめっこばかりでした。負けず嫌(ぎら)いの兄弟(きょうだい)ふたりは、背のびしては、毎日毎日ツンツン!ツンツン!と、していたのです。

「ぼくのほうが背が高いんだ!」「いや、ぜったいにぼくだ!」。お互いに「負けてたまるもんか!」と、お空へ向かって競争(きょうそう)していました。

やがて暑(あつ)い夏(なつ)が、きました。ふたりの頭の上には、お日さまがこれでもか!と、ジリジリ!照(て)りつけます。そして、雨のふらない日が、続きました。それでも、ツンツン!ツンツン!と、高く伸びる競争(きょうそう)をしていたのでした。競争ばかりに夢中(むちゅう)に、なりすぎて、兄弟は、じぶんの足もとの水が、干上(ひあ)がりそうなことにも気がつきませんでした。兄の苗(なえ)が、言いました。「なんだか、足がきゅうくつだ。へんだなあ!」すると、弟の苗も気がついて「兄さん、ぼくたちの足もとを見てごらんよ。水がすっかり乾きそうになってるよ。たいへんだ!どうしよう?」ふたりは、大あわてです。

兄も弟も、このままでは、しかたがないので、しぶしぶと競争を休みます。ふたりで相談(そうだん)しなければならなくなったからです。そして、兄弟でお空を見上げながら、もう少しだけ、足の根っこを土の下へ下へと伸ばすことにします。なんとか、窮屈(きゅうくつ)だった足もとがなおりました。そうしているうちに、雨が降(ふ)りはじめたので、ほっ!とします。

すると、ふたりの兄弟は、またもや、やっぱりツンツン!ツンツン!と、競争をはじめてにらみ合って背伸びをはじめました。

やがて、あつい夏がおわり、さわやかな秋のお空になってきたころです。黒い雲(くも)が、お空で、どんどん大きくなって広がり、お空が暗(くら)くなりました。大きな台風(たいふう)が、きたのです。兄弟は、台風のいじめにあいます。ふたりの頭は、どしゃぶりの雨でぬれて重くなります。体は、風で飛ばされそうになります。立っているのがやっとです。

あまりに強い風に殴(なぐ)りたおされて、地面(じめん)に、ぐったりした弟を見て、兄は思わず言いました。「だいじょうぶかい?」。弟はこたえました。「兄さんも、だいじょうぶ?水で根っこがぬけそうだよ?」と。すると、兄が言います。「だいじょうぶだよ。ぼくにつかまって立ってごらん。」「ありがとう、兄さん。ぼくが立てたら、こんどは、ぼくが兄さんをささえられるよ!」。

こうして、稲の苗の兄弟は、たがいに助け合うようになりました。おかげで、ふたりとも、台風(たいふう)に、負けないで、持ちこたえることができました。

台風が、遠くへ去(さ)った後、お空にはお日さまがまぶしく光りながらほほえんでいます。それを、ふたりで仲よく見上げて、にっこり!とした兄弟は、思わず顔を見あわせました。でも、おたがいに、ツンツン!ツンツン!と、競争していたことを思いだしてしまいます。ふたりは、なぜか、はずかしくなりうつむいてしまいました。

それでも心のそこから、気がつきました。『仲よく助け合えば、生きていけるんだ!』ということをです。ですから、もう一度、そっと顔を見合わせます。おたがいに、ニコニコの笑顔(えがお)で言います。「これまで、ごめんね~!」「ぼくのほうこそ、ごめんね~!」とあやまり、仲よくする約束(やくそく)をしました。

秋の気持ちのよい風が、稲穂(いなほ)の兄弟の顔をなでるころになりました。おたがいに、思いやりができるようになったふたりは、黄金色(こがねいろ)の、それはそれはりっぱな稲穂(いなほ)になっていました。ふさふさと、お米の実を、頭のところに、いくつもいくつもつけています。そして、豊(ゆた)かに輝(かがや)いています。

そして、ふたりは、いつの間にか、ツンツン!ツンツン!として、上へ上へと向けていた頭を、ゆったり!ゆったり!と、垂(た)れ下げていたのでした。

”実るほど頭を垂れる稲穂かな”を寓話にしてみました。お米だけではなく、人も徳を積んで熟すほどに謙虚になりますね。他の者と競争し押しのけて高いところへと強引に進む生き方は、ツンツン!として余裕のない青い苗のまま、ということでしょうね。心を豊かにして謙虚であれば、思いやりも示せるものです。これからの子どもたちに、この寓話が少しでもお役に立てれば幸いです。

★偶然ですが、動画サイトにて素敵に朗読されているのをみつけました。画像も声もとても美しいので、是非、お子様とご一緒にお聴きくださいませ。

written by 徳川悠未