心に優しいプチ童話集 優しい愛にあふれる短い童話集です。無料で読めます。ご家族でどうぞ!

第五話「菜の花の悩み」

いつも明るく優しい菜の花さんですが、ひとつだけ悩みがありました。さあ、どのようにして解決するのかな?

菜の花さん

ほんわか!少しだけあたたかくなってきた春の段々畑(だんだんばたけ)です。青い空の下で、菜(な)の花の隣(となり)に植(う)えられていた青ネギさんが、菜の花さんにさみしそうな声でささやきました。「菜の花さん、あなたはわたしたち野菜(やさい)の仲間(なかま)ですよね?」。

菜の花さんが返事(へんじ)に、迷(まよ)っていると、今度はななめ上のほうから、赤い椿(つばき)さんが枝(えだ)をゆらしながら、ささやきます。「菜の花さん、あなたはわたしたち花の仲間ですよね?」。菜の花さんは、また返事に困(こま)ってしまいました。なぜなら、青ネギさんと赤い椿さんは、ちょっぴり冷たい関係(かんけい)なのですから。

まだ、ふっくら蕾(つぼみ)の菜の花さんは、自分でもどちらの仲間かを、わからなくなっていたのでした。ほんとうならば、いつものように思いっきり小さな花をいっぱい開いて、お日さま色にかがやく洋服(ようふく)で、段々畑をおおって明るくするはずだったのです。

でも、今年(ことし)は「わたしは野菜なのかしら?それとも、花なのかしら?』と、悩(なや)みはじめています。じつは、一年前の春のできごとから、菜の花さんはなにがなんだかわからなくなっていたのでした。

一年前の菜種梅雨(なたねづゆ)のある日でした。どんより空なのに、菜の花さんの畑に、人々がたくさん集まってきて「まあ!菜の花は、きれいなお花ねぇ。」「すてきねぇ!やっぱり春一番のお花よね。」と口々(くちぐち)に、ほめられたのでした。菜の花さんとしては、お花屋さんで自分が「花」として売られていることは、そよ風さんの噂(うわさ)から聞いていました。でも、この段々畑にまで、人々がながめに来るなんて、思いもよりませんでした。なぜって・・・菜の花さんは、『お花見(はなみ)』と言ったら、桜さんのことに決まっていると思っていたからです。まさか、自分が『お花』として喜ばれるなんて、考えてみたこともなかったのでした。

そして、今!段々畑の菜の花さんは、自分の黄色いお花を開く明日(あした)まで、隣の青ネギさんとななめ上の赤い椿さんに答えなければならない、とおもっています。

次の日の朝になりました。菜の花さんは、プチッ!カサッ!と、にこにこ笑顔のお日さまの下で、小さな黄色い花のお顔をひとつずつ出しはじめました。青いお空がすっかり澄(す)みわたった昼前(ひるまえ)には、段々畑に黄色のほのぼの明かりがいっぱい灯(とも)ったようになりました。

午後になりました。ちょっぴり冷たい風がふいたとき、隣の青ネギさんが、また、ささやきます。「菜の花さん、やっぱり、あなたはわたしたち野菜の仲間ですよね?」。すると、今日は、菜の花さんが風にゆれながら、とても元気な声で答えました。「もちろんですとも!青ネギさん。わたしはあなたとおなじ野菜ですもの。」青ネギさんは、うれしさのあまり、ツーン!と伸(の)びた先っぽをクネッ!と折(お)りながら「そうですよねぇ!」と言います。

それを聞いていた赤い椿さんが、いそいでななめ上からささやきました。「菜の花さん、あなたはわたしたち花の仲間なのですよね?」。菜の花はななめ上を見あげて、ほほえみながら答えました。「もちろんですとも!赤い椿さん!わたしはあなたとおなじように、種(たね)が、油(あぶら)になるのですもの。」。すると、椿さんは、赤いお顔を落としそうなほど首をふってよろこんで「そうですよねぇ!」と、言いました。

そのようすを見ていた青ネギさんが、おどろいて大きな声で、ききます。「じゃあ、わたしたち野菜も花も・・・みんなが、仲間だっていうことなの?」。

菜の花さんが言います。「そうなのね。わたしたちぜんぶが、この段々畑の仲間で、お友達なのだわ。」

椿さんも、赤いお花の首をゆらゆらさせながら、うれしそうに言いました。「まあ!なんてすてきなのでしょう!この段々畑のわたしたち皆、だれもが仲間でお友達だなんて!」

菜の花さんが歌うように答えました。「段々畑のわたしたち、みんなで仲良し。ああ!なんと幸せいっぱいなんでしょう!」。こうして、菜の花さんの知恵(ちえ)と、その明るいお花の光で段々畑の皆を、幸せにしたのでした。

菜の花さんは、一晩中考えました。みんなが平和で幸福になるような答えは?と。そして、賢い答えをみつけたのでした。わたしたち人間も、同じ地球に住む仲間として、共通点をさがしてみたいですね。そうしたら、世界中みんなが友達で、どんなにか幸せなことでしょうね。

★偶然ですが、動画サイトにて素敵に朗読されているのをみつけました。画像も声もとても美しいので、是非、お子様とご一緒にお聴きくださいませ。

written by 徳川悠未