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第四話「むくげのクーちゃん」

真夏の花のむくげ。とてもきれいで、強い花ですね。でも、いやな夕立にあったらどうするのでしょうか?負けてしまって、怒るかな?それとも・・・。

大きなお空

今日もぎらぎらのお日さまは、「夏なんだから!」と、照(て)りつけて、大サービスしています。 さいきんは手加減(てかげん)を、忘れています。でも、そんなお日さまに向かって「キャッキャッ!ウフフ!」と、元気(げんき)に大よろこびするお花がひとついました。

それは、今朝(けさ)生まれたばかりの夏の花であるムクゲのクーちゃんです。透(す)きとおるほどに薄(うす)くって美しい五枚(ごまい)の、うす紅色(べにいろ)のヒラヒラを、身にまとっています。クーちゃんごじまんの、このヒラヒラドレスのまん中からは、明るいクリーム色の首(くび)が、ちょこん!と、つき出ています。クーちゃんが、大すきなお外を見たくてしかたがないから、ついつい出てしまうのです。

風にそよぐ深緑色(ふかみどりいろ)の、葉っぱの枝(えだ)のさきに、最初(さいしょ)に生まれたのがクーちゃんでした。まだ小さなたくさんの妹(いもうと)たちが、蕾(つぼみ)のままで、順番(じゅんばん)を、まっています。あつい夏から秋まで、ひとりが一日ずつだけ生きて、お空と世界(せかい)を、みられるのです。そして、その日の夜には、散(ち)って、死んでしまいます。

一番上のお姉ちゃんのクーちゃんです。妹たちのためにもお手本でいなければなりません。でも、まぶしいほどの夏の青くて広いお空がうれしくって、どうしても黙(だま)ってはいられませんでした。お日さまが、小さな雲から出たり入ったりするだけで「キャッキャッ!ウフフ!」と、大はしゃぎです。想像(そうぞう)していたより、広いお空がほんとうに大すきになってしまったのです。

でも、夏のお空はクーちゃんのことなんて、気にかけていませんでした。ちいさな黒い雲をたくさん呼(よ)びよせてきました。そして、ギューッと、しっかりにぎって固(かた)めます。やがて、黒い雲の巨人(きょじん)に、仕たて上げてしまいました。お空は暗くなり「ゴロゴロッ!ピカーッ!」と、大きな音をたてはじめました。ところが、ムクゲのクーちゃんは、生まれてはじめて聞く音と光をこわがるどころか、「うわ~っ、すごい~すごい!もっと光って見せてちょうだい!」と、うす紅色のドレスを揺(ゆ)らして、大よろこびするのです。

すると、お空は次(つぎ)の武器(ぶき)を、登場(とうじょう)させます。「それじゃ!これで、どうだ!」とばかりに、干上(ひあ)がった地面(じめん)や木にザァーザァー!と、攻撃(こうげき)します。ムクゲの木にもきました。それは、それは、はげしい夕立(ゆうだち)です!まるで滝(たき)の水ような強い雨がクーちゃんを、おそいます。だいじな自慢(じまん)のヒラヒラドレスが、バラバラと破(やぶ)れてしまい、地面(じめん)に落ちてしまいました。ムクゲの木の根もとも、お庭も野原(のはら)も畑も水びたしです。

クーちゃんは、たいせつなたいせつなうす紅色のヒラヒラドレスを、こわしてしまったお空が、とても憎(にく)らしくなってきました。「こんなひどいことをするなんて、許(ゆる)せない。悲しいわ。」と、とてもみじめな気もちになり、それまでの楽しかったことなど、ぜんぶ忘れてしまいました。

夕立(ゆうだち)は、去(さ)って、しとしと雨になりました。クーちゃんが雨にぬれながら、泣いていると「お~、恵(めぐ)みの雨じゃのう。」と、言うしわがれ声が聞こえてきます。それは。お隣(となり)の大きな木であるケヤキ仙人(せんにん)でした。ケヤキ仙人が言いました。「これで、花も木も畑も水でうるおう。また新しい木の芽も出るし、花も咲くだろう~て!人間もよろこぶだろうのう~。」仙人のこの言葉が。クーちゃんの心に、ふかくのこります。

しかし、時間がありません。クーちゃんが、死んでしまう夜の闇(やみ)が、せまっていました。明日(あした)は、すぐ後ろでまっている妹が、一日じゅう生きる番(ばん)です。クーちゃんは、クリーム色の首だけの体を雨の中で震(ふる)わせながら、妹たちのことを考えていました。自分は、もうすぐお空や世界(せかい)ともお別れなのです。

しばらくすると、突然(とつぜん)、クーちゃんが、お空にむかって大きな声でさけび始(はじ)めました。 「ありがとう!雷(かみなり)さんは、太鼓(たいこ)たたいて、危険(きけん)を知らせてくれたのよね。雨さんは、みんなの命(いのち)を、つないでくれたのね。ありがとう!お空のお日さま、風さん。あなたたち皆(みんな)のおかげで、わたしはこんなにすてきな世界を見られたのですもの。ありがとう!そして、妹たちをよろしくね。ありがとう!そして、さようなら!」クーちゃんは、こうさけぶと幸せいっぱいの笑顔(えがお)になって、そっと目をとじました。そして、しずかにしずかに地面に落ちていきました。透(す)きとおるほど美しいうす紅色のドレスをなくし、クリーム色の首のままで、クーちゃんの短い一生(いっしょう)が、終わったのでした。

クーちゃんのさいごを見とどけたお隣(となり)のケヤキ仙人が、つぶやきました。「今日というこの日に生まれて、幸せじゃったろう~て。なにしろ、今日は地球(ちきゅう)のぢじなメンテナンスの日じゃったからのう~。夕立(ゆうだち)は、もちろん、竜巻(たつまき)も大雨も、すべては地球のバランスを整(とと)えるためのメンテナンスというものなのじゃから!おお、感謝のいち日じゃったよ。」そう言い終えると、ケヤキ仙人は、雨上がりでくっきりと澄(す)んだ夜の空に光りだした星をみつめました。その時、クーちゃんそっくりの笑顔(えがお)をしたクリーム色の一番星(いちばんぼし)が、「キャッキャッ!ウフフ!」 と、明るくうれしそうに輝(かが)やいて、ケヤキ仙人にほほえんでみせたのでした。

どんなつらい事も、考え方次第ですね。良い面を思い出して、クーちゃんのように明るく楽しく毎日を過ごしたいものです。そして、自分のことばかりを考えないで、ほかの人のことを考えられる人こそ幸せになるんですね。そんな思いを綴ってみました。

★偶然ですが、動画サイトにて素敵に朗読されているのをみつけました。画像も声もとても美しいので、是非、お子様とご一緒にお聴きくださいませ。

written by 徳川悠未