心に優しいプチ童話集 無料で読める優しい愛にあふれる短い童話集です。ご家族でどうぞ!

第二話「チューリップの願い」

並んで咲いてるチューリップさんたちは、色がちがっていても、皆、仲良しです。そんなチューリップさんたちから、人間にお願いがあるんですって!どんなことかな?

チューリップさん

春の小さな児童公園(じどうこうえん)、ブランコが三台(さんだい)しかないけれど、ママと子どもたちには、人気(にんき)があるのでした。ママと子どもが、お手々つないでやって来て、待ちに待ったおんもで遊ぶのです。そして、今年(ことし)も、小さな花壇(かだん)には春を知らせるチューリップさんが、並(なら)びました。

ギーコ!ギーコ!女の子を乗せたブランコを、押(お)し押し、ママが歌います。 「♪さいた~さいた~チューリップの花が~ならんだ~ならんだ~赤(あか)、白(しろ)、黄色(きいろ)~♪」

ブランコに乗ってる小さな女の子も歌い出します。「♪あか~ちぃろ~きぃいろ~♪」

子どものかわいい歌声(うたごえ)が、公園にながれました。すると、チューリップさんたちが耳を澄(す)まします。そして、はなびらが動きはじめました。赤、白、黄色のチューリップさんの花が、春の風(かぜ)に、ゆれながらげんきにひらきました。みんな、とてもうれしそうです。

ところが、三本の紫(むらさき)のチューリップさんだけは、なぜか、閉じたままです。どうしたのでしょう。じつは、むらさき色のチューリップさんの花の中には、悲しみがいっぱい詰(つ)まっていたのです。

「毎日、聞こえてくるこの歌が、悲しいの。わたしたちのことは、歌ってもらえないんですもの。人間さんにほめてもらえないんだわ。だから、花をひらけない・・・。」と、泣いていたのでした。「むらさき~♪」と、だれも歌ってくれないさみしさと「きれいだ~♪」とも、歌われない悲(かな)しみに、つつまれていたのです。むらさき色のチューリップさんにとって、悲しい春がはじまりました。

ほかのチューリップさんたちが、それに気がつきました。お友達(ともだち)みんなで、仲良く咲いてみたかったので、赤、白、黄色のチューリップさんたちも悲しくなりました。それで、みんなで力をあわせて、祈ることにします。

『わたしたちチューリップの歌を、黄色(きいろ)で、やめないで!お願い!』むらさきのチューリップさんの他は、心の中でいっせいにさけんでいました。でも、なかなかその歌声が聞こえてきません。『このまま、いつも黄色さんまでで、歌が終わってしまったら、むらさきさんは、きっと!悲しみのあまりに、花を開かずに枯(か)れてしまうかもしれない。』心配(しんぱい)で、たまりません。そうなったら、仲良しの赤と白と黄色のチューリップさんにとっても、とてもとても悲しいことになってしまうのです。チューリップさんたちの悲しみは一しゅうかん続いていました。

そして、今日(きょう)も、木漏(こも)れ日(び)のなかで、ブランコがゆれています。小さな坊やが歌い出しました。チューリップさんたちは、またも緊張(きんちょう)で、葉っぱがふるえます。そのとき、大きくってげんきな声が公園にながれました。

「♪さいた~さいた~チューリップのはなが~ならんだ~ならんだ~あか~しろ~きいろ~♪」 チューリップさんたちは、みんなで、じっとして耳をかたむけました。そして、坊やの歌が続きます。

「♪ど~の~はな~見ても~きれいだなあ~♪」どの花も!きれい!と歌っています。赤いチューリップさんが、ほっとほほえみました。白と黄色のチューリップさんたちにも、えがおがもどりました。みんなで、むらさきさんの方を見ていると、カサッ!カサッ!とやさしい音がします。開きはじめたのです。春の陽射(ひざ)しに、照(て)らされて、ベルベットのようなむらさき色の花びらが 、やわらかく輝(かがや)いています。花のなかをお日さまがのぞいたら、むらさきさんの悲しみが 花の中から飛(と)び出して、青くて大きな春の空へと散(ち)っていきました。

チューリップさんたちは、思わず葉っぱで拍手(はくしゅ)します。悲しみがなくなった小さな児童公園(じどうこうえん)に、チューリップさんたちがうれしそうに咲いて、やっと、ほんとうの春がきたのでした。

花の色もいろいろですね。でも、どの色の花も皆きれいです。人間も同じですね。お友達も仲間も皆、少しは違っていても、助け合って仲良くしていけます。ひとりの幸せは皆の幸せですね。時々、チューリップをみつけたら、それを思い出しましょうね。

★偶然ですが、動画サイトにて素敵に朗読されているのをみつけました。画像も声もとても美しいので、是非、お子様とご一緒にお聴きくださいませ。

written by 徳川悠未