心に優しいプチ童話集 無料で読める愛にあふれる短い童話集です。お子さんへ読み聞かせましょう!

第一話「桜のララバイ(子守唄)」

桜の木のママの願いはなんでしょう?小さな子どもである芽々たちに、やさしく歌って聞かせる子守唄。どうして歌っているのかな?

桜の母と子

「もう、いいか~い?」小さな桜の芽(め)の、子どもたちのかわいい声が、冬の木々の梢(こずえ)の中に、こだまします。どうしてかな?

「ま~だだよ。梅おばさんを祝福(しゅくふく)し、ピューピュー北風さんが逃(に)げてって、ポカポカお日さま高くなる。それまで、おやすみ子どもたち。ねんねんころりよ、ねんころりん」 お母さん桜のやさしい子守り歌(こもりうた)が、二月の空にひびきます。いったい、どうしたのでしょう?

じつは、かわいい桜の芽の子どもたちは、お母さんの木から栄養(えいよう)をもらって育っていたのです。あたたかな緑の毛布(もうふ)に包まれたまま、少しずつ大きくふくらんできました。でも、まだまだ、かたくとんがった蕾(つぼみ)なのです。もしも、今、子どもたちがほんの少しでも、そのお顔(かお)を出してしまったら、いじわるな木枯(こが)らしとつめたい霜(しも)で、死んじゃうのです。お母さんは、しんぱいでたまりません。でも、そんなことを子どもたちは、なんにも知りません。だから、朝になると日の出とともにお顔を出したくて、さわぐのです。

小さくてかわいい子どもたちは、広い世界(せかい)へデビューできる春が待ちどおしくって、待ちどおしくって、しかたがありませんでした。それに、近所(きんじょ)の梅おばさんのところの子どもたちは、お顔をぜんぶ出してかわいいお花になったのです。プンプンと甘ずっぱい香りを、こちらまでおくっているではありませんか。桜の子どもたちは、もう待つのがたいへんになってきました。それで、子どもどうしで決めたのです。

「ぼくたち、あたしたち!梅さんたちに負けられないもん!」 だから・・・今日(きょう)も、お母さん桜にみんなで聞くのです。

「もう、いいか~い?」

お母さん桜は、心から願(ねが)っていました。『もっと早く、木枯(こが)らしが、北の国へ帰り、お日様が空に高くなり、そして長くすわってくれるようになれば・・・かわいい子どもたちが顔を出しても安心(あんしん)なのだけど。でも、まだまだ、今は寒さがこわい二月だわ。小さなこどもたちの大切な命がかかっている。なんとか子どもたちが、がまんしてほしいわ。』

桜のお母さんにとっては、一日一日が、とても長く感じる寒い冬の毎日です。そして 「まだまだ、毛布(もうふ)の中で、お目々をとじてじっとしていてね!」と、母のお願いの意味(いみ)さえも、わからない小さな子どもたちなのでした。

でも、そろそろ、同じことをくり返し言い聞かせるお母さん桜も、大きな声で子どもをしかりたくなってきました。お母さんは、それをこらえるが、もう限界(げんかい)です。それで、昨日(きのう)桜のお母さんは、こっそりと子どもたちにきづかれないようにして、近所(きんじょ)の梅おばさんに相談(そうだん)したのです。そこで、教(おし)えてもらったのが子守唄(こもりうた)なのでした。だから、今日(きょう)も歌います!

「もう、いいか~い?」と小さな子どもたちです。それに答える桜のお母さんの子守唄! ♪「ま~だだよ。梅おばさんを祝福(しゅくふく)し、ピューピュー北風さんが逃(に)げてって、ポカポカお日さま高くなる。それまで、おやすみ子どもたち。ねんねんころりよ、ねんころりん」♪

こうして、桜のお母さんのやさしいやさしい歌声(うたごえ)は、ピンクの花が美しく開く春まで、ひびくのです。

寒い冬の大きな空の下で、桜の木を見たら、近づいて聞いてみませんか?桜の子守唄(ララバイ)を!桜も人も、子どもを愛するママの気持ちは、みな同じですね。でも、いつかは必ず大きくなって巣立つ子どもたちです。それまでは愛情込めて楽しく一緒に時を過ごしましょうね。

(by 徳川悠未)


★偶然ですが、動画サイトにて素敵に朗読されているのをみつけました。画像も声もとても美しいので、是非、お子様とご一緒にお聴きくださいませ。



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